入院給付金がもらえない大問題

 民間医療保険は、言葉は悪いですが、しょせんは健康保険に寄き生せいした商売に過ぎません。しかも契約時の健康保険の範囲、つまり、契約時点での医療の中身を基準に作られています。そのため、健康保険の制度が変わるようなことがあると、その効力を失うことにもなりかねません。
 とくに危ないのが「入院給付金」です。入院すると1日当たり5000円や1万円をもらえるといったもので、医療保険の大黒柱≠ノ相当します。ただし、「もらえる」といっても、そのお金は保険契約者のみなさんが毎月支払う保険料から出るのですから、ありがたがることはありません。それより、「どんな病気に罹ろうとも、入院しない限りもらえない」という現実をもっと直視する必要があります。
 なぜなら、今世紀に入ってから、ほとんどすべての病気で入院日数が減り続けているからです。

 

 

 厚生労働省の統計によれば、1999年における病院の平均入院日数は41・8日でした。それが2014年には33・2日に減りました。
 ただしこの数字には、精神病床や療養病床も含まれています。精神疾患の患者のなかには、年単位で入院しているひとが少なからずいます。また療養病床も「社会的入院」といって、引き取り手のない寝たきり患者などが亡くなるまで入院していることが少なくありません。そうした超長期の入院患者が、全体の平均入院日数を長く見せているのです。

 

 心臓病、がん、脳卒中を含む普通の病気やケガでは「一般病床」に入院します。一般病床の平均入院日数は、1999年には30・8日でした。入院給付金が日額5000円の保険に入っていたとすると、1999年の時点では、平均15万〜16万円の給付が期待できました。ところが2016年の一般病床の平均入院日数は、16・2日に減ってしまいました。これでは、入院給付金は8万円くらいしかもらえません。ほとんど半減というわけです。
 しかも、入院日数は今後さらに減ることが確実です。増え続ける医療費を何とか抑え込むために、政府は入院日数をもっと減らそうとさまざまな手を打っています。簡単に言えば、入院日数を短くして患者の回転率を上げないと、病院の収入が減ってしまうように制度を作り直したのです。
 また比較的軽症の患者は、できるだけ入院させず、外来や在宅医療で治療を継続するように誘導しています。手術が必要な患者についても、術前検査などはできるだけ外来で済ませるようになってきています。入院できなければ、医療保険から入院給付金をもらえないことは言うまでもありません。
 極め付きは「介護医療院」の新設です。
 これは、2018年4月の診療・介護報酬同時改定で新たに設置が決まったもので、「医療」「介護」「すまい」の3機能を併せ持つ介護保険施設です。2018年12月末現在、113施設が開設され、7414床になったといいます。
 今はまだ、脳卒中や認知症などで長期の入院が必要な高齢者は療養病床に入院しているケースが大半です。ただし、厚生労働省の資料には、介護医療院とは「要介護者に対し、『長期療養のための医療』と『日常生活上の世話(介護)』を一体的に提供する」施設だと書かれていますから、今後この介護医療院への移行が進むことは確実です。
 では、この施設に入った場合、医療保険的には「入院」なのでしょうか。厚労省によれば「介護保険法上の介護保険施設だが、医療法上は医療提供施設として法的に位置づける」となっています。このとおりに解釈すれば、介護医療院は病院と同等であるため、医療保険の入院給付金の対象になるはずです。
 しかし、ほとんどの保険会社のホームページには「医療療養病床は給付対象」と書かれているだけで、介護医療院については完全にスルー¥態です。
 各社がこれからどういった対応を見せるのか注視する必要がありますが、保険はあくまでも契約時の約やっ款かんに書かれた内容だけが保障対象となります。一方、介護医療院の制度はスタートしたばかりで、それ以前に契約済みの保険では考慮されていないと思っておいたほうがいいでしょう。
 医療保険で「終身保険」を選ぶひとのなかには、老後の長期入院の対策として考えているひとも多いと思います。でも、その目もく論ろ見みが脆もろくも崩れ去ってしまうかもしれません。すでに契約済みのひとは、ぜひとも保険会社に確認してください。

手術給付金も有名無実化の可能性

 手術給付金は、医療保険の第2の柱です。ところがこれも、かなり怪しくなってきました。手術自体が変わりつつあるからです。
 医療保険の手術給付金は、1日当たりの入院給付金の10倍から40倍というのが一般的です。入院給付金が5000円/日とすれば、手術の種類に応じて5万円から20万円が給付されます。当然、20万円をもらえるのは、開腹・開胸・開頭などを伴う大手術(保険会社が言うところの「重大手術」)に限られます。
 消化器の病気では、昨今、内視鏡手術が広まっています。胃や十じゅう二に指し腸ちょう、大腸などのポリープは、内視鏡で簡単に切除することが可能になりました。しかも大半が日帰りです。胃い潰かい瘍よう・十二指腸潰瘍などは、手術ではなく薬で治せるようになりました。潰瘍による出血なども、内視鏡で処置できます。胃潰瘍で開腹手術を受けるのは、今ではむしろ珍しいケースです。